野球施術・VEO(Valgusextension overload)肘関節伸展角速度と野球肘の関係
VEO(Valgusextension overload)とは
VEOとは、「肘伸展角速度」をいいます。
野球の投球動作において、肘伸展角速度は、肘内側に外反モーメントによる引張力が繰り返し発生し、それと同時に、高速の肘伸展トルクが発生することによる偶力の相互作用を起こします。
投球動作の運動学的要素(動きの記述)と運動力学的要素(投球で生じる力)について、三次元のバイオメカニクス的評価を行った研究では、MER(最大外旋位)からBR(ボールリリース)までの肘関節の伸展角速度2,700°/秒以上に達する可能性のあることが示唆されました。
筋疲労の状態でVEOが加わると、UCLの前部と中部にかかる引張応力が増大し、また、VEOの結果として、肘後内側の滑車における関節損傷、骨棘形成、および微小骨折が報告されています。
伸展速度を制御するのは上腕二頭筋腱の伸張性筋活動になります。
肘関節伸展の減速を改善すると、肘後内側の滑車および尺骨鈎状突起の変性変化を緩和する可能性もあります。
さらに、高いVEOは関節における微小骨折を引き起こし、その結果、遊離体(骨の小片)が形成されて肘関節の関節腔内を移動し、骨や軟骨の小片は、肘関節の可動域と機能性に影響を及ぼします。
若年者と成人の両集団において、VEOは軟部組織の機械的損傷と生理学的修復のバランスを崩すことが明らかになっています。
野球施術・野球肘の機能解剖学(結合組織と筋群が肘関節の静的および動的安定化機構として作用する20~120°の肘屈曲角度において生じる)
UCL(尺側側副靭帯)微細損傷
生理学的に、微細損傷のアンバランスが生じることによって、屈曲回内筋炎、内側上顆骨端症(内側上顆の成長板の炎症)、尺骨神経炎(尺骨神経の炎症)、およびUCL捻挫が引き起こされます。
UCLの損傷と前腕の筋腱炎は、後期青年および成人においてより多くみられます。
内側上顆および骨端症は、リトルリーグ肘症候群に関連づけられる症状の中でも主要なものと考えられています。
肘内側の骨端症は、内側上顆の骨端に起こる炎症であり、内側上顆の自然な成長と発達に影響を及ぼします。
内側上顆(肘の内側の出っ張り)に触れると、腫れていて痛みがあるのが特徴になります。
内側上顆に付着する筋や靭帯の収縮が生み出す強い引張力は、骨の未成熟なアスリートにおいては剥離骨折を引き起こす可能性もあります。
剥離骨折は、発達途中の骨(石灰化度が低い)と、骨に付着し、引張制御機構として作用する靭帯や腱との間にある組織が比較的強度が弱いために生じると考えられています。
トミー・ジョン手術
UCL前部の部分および完全断裂に対しては、UCLの手術が処方されます。
保存療法に良好な反応を示さないお客に対しても、手術が行われます。
「トミー・ジョン」手術と呼ばれる前部の再建術は、一般的に長掌筋、足底筋、またはアキレス腱の遊離腱移植を行うものになります。
尺骨と上腕骨内側上顆に穴を開け、そこへ自家移植片を通して八の字に縫合し、ほとんどの手術転機において、競技の回復率は90%近くに達しています。
※ただし、年長の投手群(30歳以上)においては、UCLと屈曲回内筋群の両方を手術した場合、競技復帰に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
術後の理学評価
術後6週間の装具装着期間内に理学療法が開始されます。
インターバル投球プログラムを開始するのは、通常、再建術の4ヶ月後になります。
競技復帰を万全な状態で迎えるためには、最低でも術後9ヶ月の期間が必要になります。
保存療法
高い要求を課せられる投手群はクライオセラピーに良好な反応を示さないことが明らかになっています。
伝統的に、投球は2~6週間にわたって中止され、冷却療法による炎症管理、可動域の改善および、ローテーターカフの内旋・外旋筋力の向上に重点が置かれます。
それと平衡して、投球腕の補助筋群のデイトレーニングを防ぐ為に、肩甲骨の安定化と前鋸筋のトレーニングを行う必要もあります。
痛みが引いた段階で、肘内側の屈曲回内筋群のトレーニングを開始します。
最初に処方されるトレーニングがファンクショナルトレーニング(プライオメトリックとバンドを用いた投球に特異的なトレーニング)とインターバル投球になります。
引用・索引 National Strength and Conditioning Assciation Japan March 2014Volume Number 2 41-43